CHAPTER 1 ── 1-18
事業者の義務か、
運行管理者の業務か
運行管理者試験で受験者を最も迷わせるのが、この切り分けです。同じ「安全」の仕事なのに、条文はそれを事業者の義務と運行管理者の業務に割り振っている。判定の軸は一つです。お金と人事と方針は事業者、日々の運用は運行管理者。この一本の軸で、ほとんどの選択肢は切れます。
SECTION 1試験ではこう問われる
「整える」のが事業者、「使って回す」のが運行管理者
なぜ二つに分かれているのか。事業者(会社)は予算と人事権を持つ側で、施設を作り、人を雇い、規程と方針を定めることができます。運行管理者は、そうして整えられた体制を使って、日々の運行を管理する専門職です。だから条文の割り振りも、資源と体制を「整える」義務は事業者に、整ったものを「使って回す」業務は運行管理者に、という原則で貫かれています。頻出の対照を表にします。
| テーマ | 事業者の義務 | 運行管理者の業務 |
|---|---|---|
| 休憩・睡眠施設 | 整備し、保守する(管理も) | 適切に管理する |
| 勤務時間・乗務時間 | 定める(改善基準に従い) | その範囲内で乗務割を作成し、従事させる |
| 運転者 | 選任する(必要な員数の確保) | 選任された者以外を乗務させない |
| アルコール検知器 | 備え置く | 常時有効に保持し、点呼で用いる |
| 補助者 | 選任する | 選任のための助言、補助者への指導・監督 |
| 運行管理規程 | 定める | 規程にもとづき業務を行う |
| 輸送の安全の基本方針 | 策定する(安全マネジメント) | ──(運行管理者の業務ではない) |
| 点呼・記録・指導監督・ 異常気象時の指示 | 体制を整える | 実施する(1-05〜1-16、1-20) |
試験の作り方は、この表の左右を入れ替えるだけです。「運行管理者の業務として正しいものを選べ」という設問で、「休憩・睡眠施設を整備し、保守すること」とあれば誤り——整備と保守は事業者です。運行管理者に割り振られているのは「適切に管理する」まで。「勤務時間及び乗務時間を定めること」も誤り——定めるのは事業者、運行管理者はその範囲で乗務割を作る側です。「アルコール検知器を備え置くこと」も誤り——備え置くのは事業者、常時有効に保持するのが運行管理者です。動詞を見てください。整備・保守・選任・策定・定めるという「体制を作る動詞」が出てきたら事業者。管理・作成・実施・確認・指示という「回す動詞」なら運行管理者です。
事業者は、休憩・睡眠施設の整備・管理・保守、勤務時間及び乗務時間の設定、必要な員数の運転者の選任、運行管理規程の制定等を行わなければならない。運行管理者は、乗務割の作成、休憩・睡眠施設の適切な管理、点呼の実施と記録、運転者への指導監督、異常気象時の指示など、第20条に列挙された業務を行う。事業者は運行管理者に対しその業務を行うため必要な権限を与え、運行管理者がその業務として行う助言を尊重しなければならない。
最後にもう一つ、上の表の下から二段目は独立して覚える価値があります。輸送の安全に関する基本的な方針の策定は、運行管理者の業務ではありません。もっともらしく選択肢に混ざる定番の誤りで、方針の策定は経営者、すなわち事業者の仕事です。
SECTION 2現場ではこう現れる
社長が運行管理者を兼ねる会社ほど、この区別が要ります
熊本の運送会社の多くでは、社長が運行管理者を兼務しています。一人の人間の中に事業者と運行管理者が同居しているのだから、区別など意味がない——と思えますが、実務では逆です。兼務の会社ほど、この区別が効いてきます。
「整える仕事」は、後回しにされ続けるからです
日々の点呼や配車(運行管理者の帽子の仕事)は、やらなければその日の運行が止まるので必ず行われます。一方、勤務時間の設定、運行管理規程の見直し、休憩施設の保守、補助者の選任(事業者の帽子の仕事)は、今日やらなくても明日の運行は回るため、何年も手つかずになりがちです。巡回指導で指摘されるのは、たいていこちら側です。当事務所の顧問訪問で毎月の帳票(運行管理者側)と年間の体制(事業者側)を分けて点検しているのは、この構造への対処です。放っておくと必ず片方だけが錆びるからです。
権限と助言の条文は、運行管理者を守る条文です
事業者は運行管理者に必要な権限を与え、その助言を尊重する義務を負います。裏返せば、運行管理者が「この運行は改善基準を超えるので組めません」と言ったとき、それを営業判断で押し切る会社は、条文の構造そのものに反しています。専任の運行管理者を雇っている会社では、この条文が運行管理者の立場を支える根拠になることを、社長と運行管理者の双方が知っておくべきです。
- □休憩・睡眠施設の整備と保守(傷み・清掃・寝具)施設
- □勤務時間及び乗務時間の設定(改善基準に従って)勤務時間
- □必要な員数の運転者の選任人
- □補助者の選任(基礎講習の受講から)補助者
- □運行管理規程の見直し(実態と合っているか)規程
- □輸送の安全に関する基本的な方針の策定・掲示方針
- ■運行管理者に必要な権限を与え、その助言を尊重しているか権限
最後の一行は、運行管理者を守る条文です。「この運行は改善基準を超えるので組めません」を営業判断で押し切る会社は、条文の構造そのものに反しています。
SECTION 3崩れると、何が起きるか
事故のあと、責任は「どちらの帽子か」で問われます
重大事故や監査の場面で、この切り分けは抽象論から責任論に変わります。点呼を怠っていたのは運行管理者の業務の懈怠。しかし、点呼ができない人員体制しか用意していなかったのなら、それは事業者の義務違反です。処分もこの構造に対応していて、運行管理者には資格者証の返納命令があり、事業者には車両停止から許可取消しまでの行政処分があります。日頃から「これはどちらの帽子の仕事か」を意識して記録を残しておくことは、単なる試験知識ではなく、いざというとき会社と運行管理者それぞれが「自分の側の義務は果たしていた」と示すための備えです。
確認の一問一答
「休憩・睡眠施設を整備し、保守すること」は、運行管理者の業務である。○か×か。
×。整備と保守は事業者の義務です。運行管理者の業務は、その施設を「適切に管理すること」です。
「勤務時間及び乗務時間を定めること」は、運行管理者の業務である。○か×か。
×。勤務時間・乗務時間を定めるのは事業者です。運行管理者は、定められた範囲内で乗務割を作成し、運転者を従事させます。
「アルコール検知器を営業所に備え置くこと」は事業者の義務であり、「アルコール検知器を常時有効に保持すること」は運行管理者の業務である。○か×か。
○。備え置くのは事業者、常時有効に保持するのは運行管理者です。動詞で切り分ける典型例です。