CHAPTER 1 ── 1-03
運賃・料金の届出と、標準的運賃
— 決めるもの、掲示するもの、書面にするもの
運賃まわりは、手続の種類が三つ並ぶために混同が起きます。運送約款は認可、運賃・料金は届出、そして決めたものは掲示する。試験ではこの三つの区別がそのまま問われ、現場では「運賃表はあるが、実際の請求と合っていない」という形で現れます。標準的運賃は、この骨格の外側にある“参考の物差し”です。守るべき義務と、参考にする数字を、はじめに切り分けておきます。
SECTION 1試験ではこう問われる
約款は認可、運賃・料金は届出、決めたものは掲示する
まず、手続の種類で整理します。運送約款は認可です。国土交通大臣が定めて公示した標準運送約款と同一の約款を定めた場合は、認可を受けたものとみなされます。中小の事業者の多くが標準運送約款をそのまま使っているのは、この規定があるためです。一方、運賃及び料金は届出で、認可ではありません。そして定めた運賃・料金と運送約款は、営業所で公衆に見やすいように掲示します。
| 対象 | 手続の種類 | 試験での狙われ方 |
|---|---|---|
| 運送約款 | 認可(変更しようとするときも同様)。標準運送約款と同一のものを定めたときは認可を受けたものとみなす | 「届出でよい」とする誤り |
| 運賃及び料金 | 届出。認可制ではない。定め又は変更したときは30日以内に所轄地方運輸局長へ(報告規則第2条の2) | 「認可を受けなければならない」とする誤り |
| 掲示・公開 | 運賃及び料金(個人を対象とするものに限る)、運送約款その他省令で定める事項を営業所に掲示。あわせて、規模が著しく小さい場合など省令で定める場合を除き、インターネットで公衆の閲覧に供する | 掲示の対象・範囲の入れ替え |
| 標準的運賃 | 国土交通大臣が参考として示す運賃。これで収受することを義務づけるものではない | 「下回ると直ちに違反」とする誤り |
覚え方は一行です。「約款は認可、運賃は届出、標準的運賃は物差し」。三つの語の後ろに付く言葉さえ入れ替わらなければ、この分野の設問はほとんど処理できます。
一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。認可の基準として、荷主の正当な利益を害するおそれがないこと、運賃及び料金の収受並びに事業者の責任に関する事項が明確に定められていることなどが定められている。国土交通大臣が定めて公示した標準運送約款と同一の運送約款を定め、又は変更したときは、認可を受けたものとみなされる。
一般貨物自動車運送事業者、特定貨物自動車運送事業者及び貨物軽自動車運送事業者は、運賃及び料金を定め又は変更したときは、その設定又は変更後三十日以内に、氏名又は名称及び住所、事業の種別、適用する運行系統又は地域、運賃及び料金の種類・額・適用方法(変更の場合は新旧の対照を明示)、実施日を記載した運賃料金設定(変更)届出書を提出しなければならない。提出先は、一般貨物・特定貨物にあっては所轄地方運輸局長、貨物軽自動車運送事業にあっては主たる事務所の所在地を管轄する運輸監理部長又は運輸支局長とされている。
一般貨物自動車運送事業者は、運賃及び料金(個人(事業として又は事業のために運送契約の当事者となる場合におけるものを除く。)を対象とするものに限る。)、運送約款その他国土交通省令で定める事項について、主たる事務所その他の営業所において公衆に見やすいように掲示するとともに、事業の規模が著しく小さい場合その他の国土交通省令で定める場合を除き、国土交通省令で定めるところにより、電気通信回線に接続して行う自動公衆送信により公衆の閲覧に供しなければならない。
この二つを並べると、対象の広さが違うことに気づきます。届出は、定めた運賃・料金そのものが対象で、荷主が事業者であるか個人であるかを問いません。これに対して掲示とインターネット公開は、個人(事業として運送契約の当事者となる場合を除く)を対象とする運賃・料金に限られます。届出の根拠が法律ではなく報告規則という省令にあることも、条文を探すときに迷いやすい点です。
ひっかけの型は二つです。ひとつは認可と届出の入れ替え。「運賃及び料金を定めようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない」とあれば誤りです。運賃の決め方と水準は事業者の判断に委ねられており、規制の重心は事前の審査から、決めたものを開示させることへ移っています。
もうひとつは標準的運賃の性格です。「標準的運賃が告示されたので、これを下回る運賃で契約すると事業者が処分される」といった文が出たら誤りです。標準的運賃は、法令を遵守して経営する際の参考となる運賃として示されるもので、収受を強制する制度ではありません。ただし、荷主との交渉の土台として国が示した水準であるという位置づけは、実務では小さくありません。
SECTION 2現場ではこう現れる
運賃表があること、ではなく、運賃表どおりに請求できていること
帳票を拝見していて多いのは、「運賃料金表は許可のときに出したきり」という状態です。作った本人も内容を覚えていない。実際の請求は荷主ごとの個別交渉で決まり、待機時間の分も積込みの分も“込み”になっている。この状態で困るのは、荷主と条件を話し直したいときに、自社の根拠になる紙が一枚もないことです。
運賃と料金は、別のものです
運賃は運送そのものの対価、料金はそれ以外の作業や待ち時間に対する対価です。待機時間料、積込料・取卸料、附帯業務料。標準貨物自動車運送約款はこの区分を明確にする方向で改正されてきました。区分が意味を持つのは、値上げ交渉の場面です。「運賃を上げてほしい」は相手の利益を削る話ですが、「これまで運賃に含めていた積込み・待機の分を、料金として分けて請求させてほしい」は、作業と対価の対応を説明する話になります。同じ金額でも、後者のほうが議論の土台が残ります。
標準的運賃は、そのまま使うより「自社の原価と並べて使う」
標準的運賃は、告示された表をそのまま自社の運賃表として届け出ることもできますが、それだけでは荷主との会話は進みません。効くのは、自社の原価—車両費、燃料、人件費、点検整備、保険—を車両1台1時間あたりで出しておき、告示の水準と並べて示すことです。「国が示した水準に対して、うちは今これだけ下回っている」という一枚があると、交渉の性質が“お願い”から“説明”に変わります。適用する運賃・料金は、この計算を踏まえて自社で設定し、設定・変更後30日以内に所轄の地方運輸局長へ届け出ます。
真荷主及び一般貨物自動車運送事業者は、運送契約を締結するときは、運送の役務の内容及びその対価その他の定める事項を書面に記載して、相互に交付しなければならない。
2024年の法改正で入った、運送契約の書面交付です。運賃・料金の話が「掲示しておく」から「一件ごとに書面で残す」段階に進んだ、と読むのが実務の受け止め方だと考えています。口頭と伝票だけで回してきた会社にとっては、ここが当面いちばん手のかかる変更です。逆に言えば、書面の型を一度作ってしまえば、待機や附帯作業の対価を書き込む欄が毎回目に入ることになり、料金の請求漏れが減ります。義務を、値決めの仕組みに変えられる部分です。
- □運送約款を備え置いている(標準運送約款を使っているか、認可を受けた約款か)約款
- □運賃料金表が、いまの請求の実態と合っている運賃表
- □運賃・料金と運送約款を、営業所の見やすい場所に掲示している掲示
- □インターネットでの公開について、自社が対象かどうかを確認した公開
- □運送契約の書面(相互に交付するもの)の様式が用意できている書面
- □待機・積込み・取卸しの対価を、料金として区分している区分
よくある状態 ── 運賃料金表は許可のときに出したきり。掲示は色あせ、実際の請求は荷主ごとの個別交渉。まずここを合わせるところから。
車両20両以下の会社での、現実的な整え方
順番としては、①標準運送約款を使っているかを確認し、②運賃料金表を今の実態に合わせて作り直し、③営業所の掲示とウェブでの公開の要否を確かめ、④契約書面の型を一枚作る。この四つです。事務員がいない会社では、④の型づくりまでを一度外に出してしまい、以後は同じ様式を使い回す形が続きます。当事務所の顧問では、この運賃・約款まわりの書類を、点呼記録簿などの日常帳票と一緒に年1回見直す扱いにしています。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
指摘されるのは金額ではなく、「決めた形跡がないこと」
巡回指導で運賃まわりが見られるとき、金額の高い安いが問われるわけではありません。見られるのは、運送約款が備え置かれ掲示されているか、運賃料金表が届け出た内容と一致しているか、という点です。掲示物が古いまま、届け出た運賃表と現在の請求がまったく違う、約款は許可申請時のコピーが引き出しにあるだけ——この形は、指導の場で「運賃・約款の管理ができていない」と評価されます。
影響は行政の側だけではありません。荷主との間で待機時間や附帯作業の対価をめぐって話がこじれたとき、拠り所になるのは約款と運賃料金表と契約書面です。書面がなければ、実際に作業した分の対価を後から請求する根拠を、自社側が持たないことになります。運賃の問題が資金繰りの問題として現れるのは、たいていこの経路です。
巡回指導や監査の連絡が来てから、過去の日付で契約書や運賃料金表を作って差し込む——これは不備の解消ではなく、事実と異なる書類を作る行為です。運賃表は「今日から適用するもの」として作り直し、必要な届出を行い、契約書面はこれから締結する契約から始める。過去に遡らないことが、かえって説明のつく状態をつくります。
確認の一問一答
一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、又は変更しようとするときは、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。○か×か。
×。運送約款は認可です(変更しようとするときも同様)。ただし、国土交通大臣が定めて公示した標準運送約款と同一のものを定めたときは、認可を受けたものとみなされます。
営業所に掲示すべきものとして、運送約款とともに掲げられている運賃及び料金には、範囲の限定がある。どのような限定か。
個人(事業として又は事業のために運送契約の当事者となる場合におけるものを除く)を対象とする運賃及び料金に限られます。あわせて、事業の規模が著しく小さい場合など省令で定める場合を除き、インターネットにより公衆の閲覧に供することも求められます。
告示された標準的運賃を下回る運賃で荷主と契約した場合、その事業者は直ちに法令違反となる。○か×か。
×。標準的運賃は、法令を遵守して経営する際の参考となる運賃として国土交通大臣が示すもので、その額での収受を義務づける制度ではありません。実際に適用する運賃・料金は、自社の原価と利潤を踏まえて設定し、設定・変更後30日以内に届け出ます。