CHAPTER 1 ── 1-04
名義利用の禁止
— 「名前だけ貸す」が、なぜ最も重いのか
名義貸しは、悪意から始まることがあまりありません。独立したい元従業員、許可が下りるまでの数か月、荷主からの頼まれごと。事情はどれも具体的で、断りにくい形をしています。それでも法がこれを正面から禁じているのは、名義を貸した瞬間に、輸送の安全に責任を負う主体が書類の上からいなくなるからです。この記事では、禁止されている二つの行為と、許可を受ければできる受委託との境目を整理します。
SECTION 1試験ではこう問われる
禁じられているのは、「名義を貸すこと」と「自分の名で他人に経営させること」
条文は二項構成です。第1項が名義の利用——自社の名義を、他人が貨物自動車運送事業を行うために使わせること。第2項が事業の貸渡し等——貸渡しであるか、その他の方法であるかを問わず、自社の名において他人に経営させること。第1項が「名前」、第2項が「実質」で、二つ合わせて抜け道を塞いでいます。
| 行為 | 扱い | 試験での狙われ方 |
|---|---|---|
| 名義を他人に利用させる | 禁止(第28条第1項)。許可や届出で可能になるものではない | 「運行管理を自社で行えば可」とする誤り |
| 事業の貸渡し等 | 禁止(第28条第2項)。方法・名目を問わず、他人に自社の名で経営させること | 「リース契約の形なら可」とする誤り |
| 輸送の安全に関する業務の管理の受委託 | 運行の管理その他省令で定める業務の管理の委託・受託は、国土交通大臣の許可を受ければ可能 | 「届出でよい」とする誤り |
| 他の事業者への運送の委託(傭車) | 相手も許可を有する事業者であり、自社が荷主に対する運送責任を負ったまま委託する形。名義の貸借とは別のもの | 名義貸しと同視させる誤り |
覚え方は一行です。「名義は貸せない。管理は、許可を得れば委ねられる」。禁止と許可が隣り合っているため、条文の並びごと覚えるのが結局いちばん速い分野です。
一般貨物自動車運送事業者は、その名義を他人に一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業のため利用させてはならない。また、事業の貸渡しその他いかなる方法をもってするかを問わず、一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業を他人にその名において経営させてはならない。
事業用自動車の運行の管理その他国土交通省令で定める一般貨物自動車運送事業に係る輸送の安全に関する業務の管理の委託及び受託については、国土交通大臣の許可を受けなければならない。国土交通大臣は、受託者が当該業務の管理を行うのに適している者でないと認める場合を除き、許可をしなければならない。
ひっかけの型は、ほぼ「例外があるように見せる」形で来ます。「実際の運行管理は自社の運行管理者が行っていたのだから、名義の利用にはあたらない」——誤りです。第1項は名義を利用させること自体を禁じており、管理の実態によって適法になる規定ではありません。もう一つは第29条をからめた形で、「運行管理業務の管理を委託する場合は、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない」——誤り。届出ではなく許可です。禁止・許可・届出の三語のうち、どれが入っているかだけを見れば、この分野の設問は落とせません。
SECTION 2現場ではこう現れる
「管理料」という名前がついていても、見られるのは実態です
実際にご相談を受ける形は、だいたい次の三つです。ひとつ、独立を決めた元ドライバーから「許可が下りるまでの半年だけ、社長の名前で走らせてほしい」と頼まれる。ふたつ、車両を持っている知人に緑ナンバーを付けさせ、売上の何割かを管理料として受け取る。みっつ、荷主から「あそこの白ナンバーの車も一緒に使ってくれ」と言われ、自社の仕事として通す。どれも、相手にとっては切実な事情があり、こちらにも断りにくい関係があります。
判定は、契約書の題名ではなく三つの事実で決まります
誰がその運転者を雇い、給与を払っているか。誰が日々の運行を指示し、点呼を行っているか。誰が運賃を収受し、事故のときに賠償の矢面に立つか。この三つの答えが自社でないなら、契約書の表題が「車両リース契約」でも「業務委託契約」でも「管理業務契約」でも、実態は自社の名で他人に経営させている状態に近づきます。名目で判断されないというのが、第28条第2項が「その他いかなる方法をもってするかを問わず」と書いている理由です。
傭車との境目
傭車は、相手が自ら許可を持つ事業者であり、自社は荷主に対する運送責任を負ったまま、その事業者に運送を委託する形です。名義を渡してはいません。境目が怪しくなるのは、相手が許可を持っていない場合と、自社が運送責任から降りてしまっている場合です。「うちは間に入って手数料をもらっているだけ」という説明が出てきたら、その時点で整理が必要だと考えています。
- □相手方は、自ら貨物自動車運送事業の許可を受けている許可
- □その運転者を雇用し、給与を払っているのは相手方である雇用
- □日々の運行の指示と点呼は、相手方が自社の体制で行っている点呼
- □自社は荷主に対する運送責任を負ったまま委託している責任
- ■「管理料」「リース料」の名目で、売上の一部を受け取っていないか要確認
- ■自社の車検証・保険・ナンバーを、相手方の運行に使わせていないか要確認
上の四つに □ が付き、下の二つに当たらなければ傭車として説明がつきます。逆であれば、雇用・傭車・第29条の許可のどれに寄せるかを決めるところから。
人手が足りないときに、取れる形は三つだけ
①自社で雇用する。②許可を持つ事業者に傭車として委託する。③運行管理その他の業務の管理を委託・受託するなら、第29条の許可を取る。実務上、この三つ以外の選択肢はありません。当事務所では、既に始まってしまっている取引について、どれに寄せて整理できるかを契約と運行の実態から見ていく形をとっています。相手のある話なので、直し方には順番が要ります。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
帳票の不備とは、質が違います
点呼記録の欠落や教育記録の不足は、直せば直った状態になります。名義貸しはそうではありません。事故が起きたとき、その運転者を雇っているのは自社ではなく、点呼をしたのも自社ではないのに、対外的には自社が事業者として責任を問われます。荷主に対しても、被害者に対しても、監査に対しても、説明できる主体が誰もいない状態になる。輸送の安全に関する制度の土台が抜けるため、行政の側もこの類型を重く扱います。
法律上も、事業者がこの法律に違反したときは、六月以内において期間を定めた輸送施設の使用停止もしくは事業の全部または一部の停止を命じられ、または許可を取り消されることがあると定められています(法第33条)。さらに、許可が取り消された場合には、その後一定の期間、新たに許可を受けられない仕組みが置かれています。名義を貸した半年の見返りと、事業そのものを失う可能性とが釣り合うことは、まずありません。
行政処分の量定は、法律ではなく公示されている処分基準で決まります。名義の利用と事業の貸渡しは、そこでも重い側に置かれた類型です。他の多くの違反が車両の使用停止(日車)で処理されるのに対し、この二つは事業停止処分の区分に入り、あわせて多数の違反点数が付されます。違反点数は累積し、一定の点数に達すると許可の取消しに至る仕組みです。日数と点数は改正のたびに動きますので、実際の量定は最新の処分基準でご確認ください。
すでに始まっている名義貸しを、通知や監査の連絡が来てから急に打ち切ると、相手の運行と生活がその日から止まり、かえって事実関係が混乱します。順序としては、まず新たな運行を止め、①雇用、②許可を持つ事業者への傭車、③第29条の許可のいずれに寄せるかを決めてから、契約と車両・保険・運転者の所属を一つずつ移していきます。書類だけを後から整えて、実態を残す形が最も危険です。
確認の一問一答
他人に自社の名義を利用させた場合であっても、事業用自動車の運行の管理を自社の運行管理者が行っていたときは、名義の利用等の禁止に違反しない。○か×か。
×。名義を他人に事業のため利用させること自体が禁止されており、運行管理の実態によって適法となるものではありません。
事業用自動車の運行の管理その他輸送の安全に関する業務の管理を他の事業者に委託しようとするときは、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。○か×か。
×。届出ではなく、国土交通大臣の許可を受けなければなりません。禁止されている名義の利用と、許可を受けて行える業務の管理の受委託は、別の規定です。
車両を所有する個人と「車両リース契約」を結び、自社の許可のもとで運行させ、売上の一部を管理料として受け取っている。契約書がある以上、名義の利用にはあたらないか。
あたり得ます。第28条第2項は、貸渡しその他いかなる方法をもってするかを問わず、自社の名において他人に経営させることを禁じています。判断されるのは契約書の表題ではなく、誰が運転者を雇い、運行を指示し、運賃と責任を引き受けているかという実態です。