CHAPTER 5 ── 5-08
見えているつもり
— 動体視力、暗順応、そして夜の道路
運転は、目に頼る作業です。ところがその目は、速度が上がるほど見える範囲が狭くなり、明るさが変わればしばらく見えなくなります。夜間には、対向車のライトの間で歩行者が消えたように見えることもあります。どれも運転者の不注意ではなく、目の仕組みとして起こることです。指導監督の項目にも「生理的及び心理的要因」が挙げられています。
SECTION 1試験ではこう問われる
速度が上がると、見える範囲が狭くなります
止まっているときの視野は、左右あわせてかなり広い範囲に及びます。ところが車を走らせると、視線は遠くの一点に集まり、周辺が見えなくなっていきます。速度が上がるほどその傾向は強くなる。日本自動車連盟(JAF)は、時速40キロメートルでおよそ100度、時速130キロメートルでおよそ30度という目安を示しています。
あわせて出るのが動体視力です。動いているものを見る力、あるいは動きながら見る力で、速度が上がるほど低下します。静止しているときには読める標識が、走りながらでは読めない。加齢によっても低下します。
明るさが変わったときの、見えない時間
暗順応は、明るいところから暗いところへ移ったとき、目が慣れるまでの過程。明順応はその逆です。トンネルの出入口、夕暮れどき、地下の荷卸し場から出たとき。暗順応のほうが時間がかかり、加齢によってさらに長くなります。トンネルに入った直後に速度を落とすのは、この間を安全に通過するためです。
そして夜間、対向車のライトのそばにいる歩行者が見えなくなることがあります。国家公安委員会の「交通の方法に関する教則」は、道路の中央付近にいる歩行者は、両方から来る自動車のライトで運転者から瞬間的に見えなくなることがあると書いています。一般に蒸発現象と呼ばれますが、教則はこの用語を使わず、現象そのものを説明しています。
SECTION 2現場ではこう現れる
「見ていなかった」ではなく「見えなかった」
ヒヤリとした場面の聞き取りをすると、運転者はしばしば「見ていませんでした」と言います。ですが実際には、見ていたのに見えていなかったことが多い。速度が高くて視野の外にいた、トンネルを出た直後で目が慣れていなかった、対向車のライトで消えていた。注意不足として片づけると、対策が「気をつけます」で終わります。
指導監督指針の第10項「交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法」は、この話を扱う項目です(5-03)。目の仕組みとして起こることだと伝えたうえで、対処を運転の仕方に落とす。落とし先はほぼ一つで、速度を落とすことです。視野も動体視力も、速度を落とせば回復します。
- ✓トンネルの出入口暗順応・明順応
- ✓夕暮れどきの薄暮早めの点灯
- ✓対向車のライトのそば歩行者が消える
- ✓高速道路の側方視野が狭い
自社の経路にトンネルがあるか、夜間便があるかで、扱う場面が変わります。四つ全部を毎回やる必要はありません。自社の運行で実際に起きる場面から選ぶほうが、記録も具体的になります(5-03)。
ライトの使い方
夜間、前照灯の下向き(すれ違い用)で照らせる範囲は限られます。その範囲の中で止まれる速度で走るのが原則で、対向車も先行車もいない場面では上向き(走行用)を使う。警察庁も、夜間の歩行者事故防止として上向きの活用を呼びかけています。上向きが基本、必要なときに下向き——順番が逆になっている運転者は少なくありません。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
夜間・薄暮の事故は、速度と結びつきます
夜間や薄暮の時間帯に起きた事故では、その速度が、見える範囲の中で止まれる速度だったかが問われます。制限速度の範囲内であっても、下向きのライトで照らせる範囲を超えた先で止まれないなら、その状況では速すぎたということになります。停止距離の話(5-09)と直結します。
そして会社の側では、夜間便の運転者に何を指導していたかが確認されます。指針の第10項は一般的な指導及び監督の項目ですから、教育記録に残っていなければ実施していないことになります(5-03)。夜間便があるのに、夜間の見えなさを一度も扱っていない教育計画は、自社の運行に即していないと見られます。
ヒヤリハットの報告に対して「前方をよく見ること」とだけ返す。夜間の指導を「注意して運転する」で締める。——どちらも、対処が運転の仕方に落ちていません。落とすなら、トンネル手前で時速◯キロまで落とす、薄暮の◯時台は前照灯を早めに点ける、夜間の一般道は下向きで止まれる速度まで落とす。数字と場面が入って初めて、指導になります。「気をつける」は、指導された側が何をすればよいか分からない指示です。
確認の一問一答
走行中の運転者の視野は、速度が上がるとどうなるか。
狭くなります。JAFは、時速40キロメートルでおよそ100度、時速130キロメートルでおよそ30度という目安を示しています。あわせて動体視力も低下し、周囲の危険を認識する能力が下がります。
暗順応と明順応の違いを述べよ。
明るいところから暗いところへ移って目が慣れることを暗順応、暗いところから明るいところへ移って目が慣れることを明順応といいます。暗順応のほうが時間がかかり、加齢によってさらに長くなります。
夜間、道路の中央付近にいる歩行者が見えにくくなるのはなぜか。
両方から来る自動車のライトによって、運転者から瞬間的に見えなくなることがあるためです(交通の方法に関する教則)。一般に蒸発現象と呼ばれます。速度を落とし、前照灯を適切に使い分けることが対処になります。