CHAPTER 5 ── 5-10
大型車の特性
— 死角、内輪差、そして重さ
同じ道路を走っていても、大型車から見える景色は乗用車とは違います。運転席の周りには見えない範囲があり、左折すれば後輪は前輪より内側を通り、重さのぶんだけ止まるまでが長くなる。指導監督指針の第3項「事業用自動車の構造上の特性」は、この三つを伝えることを求めています。巻き込みと追突は、ここを外したときに起きます。
SECTION 1試験ではこう問われる
構造上の特性は、三つに整理できます
指導監督指針の第3項は「事業用自動車の構造上の特性」です(5-03)。何を教えるかは書かれていませんが、実務で扱うべきものは死角・内輪差・重さの三つに整理できます。どれも、乗用車の感覚のままでは起こらない事故につながります。
死角は、運転席から直接見えない範囲です。車高が高いぶん直前が見えず、車体が長いぶん左側方と直後が見えない。ミラーはこれを補うためのものですが、ミラーにも映らない範囲が残ります。
内輪差は、旋回するときに後輪が前輪より内側を通ることによる軌跡の差です。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が長いほど大きくなります。左折で前が通れたからといって、後ろも通れるとは限らない。連結車では、さらに大きくなります。
三つめが重さです。同じ速度で走っていても、重い車は止まるまでの距離が長くなります(5-09)。積んでいるときと空車のときで違うのも、運転者が体で覚えるまで時間がかかるところです。カーブでの横転しやすさも、重心の高さと積み方で変わります。
SECTION 2現場ではこう現れる
左折の手順を、言葉にしておく
巻き込み事故は、確認の手順を決めているかどうかで頻度が変わります。決めていない会社では、運転者ごとに手順が違い、忙しい日には省かれます。決めてあれば、少なくとも何を省いたかが分かる。手順は、守れているかどうかを点検できる形にして初めて意味を持ちます。
- ✓① 手前で減速し、左に寄せる二輪の進入を防ぐ
- ✓② 左のミラーと目視で確認曲がる前
- ✓③ 曲がりながら、もう一度左を見る内輪差の内側
- ✓④ 死角があるときは、いったん止まる迷ったら止まる
①が実は要点です。左に寄せておけば、二輪車が左側に入る隙間がなくなります。②だけを指導している会社は多いのですが、②の時点で見えていなかったものが③で現れることがあるので、二度見る形にしておきます。
実車を使うと、伝わり方が変わります
死角も内輪差も、言葉で説明するより実際に運転席に座らせて見せるほうが早い。構内で、車の前後左右に人を立たせて「いま見えますか」と聞く。左折の軌跡をパイロンで示す。10分でできて、記録にも残せます(5-03)。初任運転者の実技20時間のうちに組み込めば、そのぶん時間も使えます(5-04)。
もう一つ、荷を積んだ状態で一度走らせておくこと。空車で慣れた運転者が満載で走ると、止まる距離もカーブでの挙動も違います。積んだ状態を経験しないまま単独乗務に入ると、最初の何回かが危ない。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
巻き込み事故は、説明が難しい形になります
左折の巻き込みで死傷者が出た場合、その運転者は事故惹起運転者として特別な指導と特定診断の対象になります(5-04)。そして会社の側では、構造上の特性についてどう指導していたかが確認されます。指針の第3項ですから、教育記録に残っていなければ実施していないことになります。
加えて、その車にどのような装置が付いていたかも見られます。左側方を映すカメラやセンサーが付いているのに使い方を教えていなかった、あるいは付いていないことを承知で対策をとっていなかった。どちらも会社の側の問題として扱われます。
巻き込み事故のあと、「左折時は徐行を徹底」と朝礼で言って終わりにする。左側方のカメラを付けたことをもって対策済みとする。——一つめは、手順に落ちていません。何メートル手前で寄せ、どの順で確認するかまで決めて、実車で見せる。二つめは、装置は死角を減らしますが、見る習慣がなければ映っていても気づきません。装置を入れたなら、それを使う手順もあわせて決める。装置は手順の代わりにはなりません(5-12)。
確認の一問一答
内輪差とは何か。どのような場合に大きくなるか。
旋回するとき、後輪が前輪より内側を通ることによる軌跡の差です。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が長いほど大きくなり、連結車ではさらに大きくなります。左折時の巻き込みの原因になります。
大型車の死角として、指導で扱うべき範囲を三つ挙げよ。
車高が高いことによる直前の死角、車体が長いことによる左側方の死角、そして直後の死角です。ミラーはこれらを補いますが、ミラーにも映らない範囲が残ります。
指導監督指針において、これらの内容はどの項目にあたるか。
一般的な指導及び監督の第3項「事業用自動車の構造上の特性」です。実車を用いて死角や内輪差を体験させる方法が、記録としても残しやすく効果的です。