CHAPTER 5 ── 5-01
実務上の知識及び能力とは
— 条文を知っていることと、運行が回ることの間
第1章から第4章までは、条文の話でした。この章はその先——知っている条文を、実際の運行の上で使えるかを問う分野です。試験でも独立した出題分野になっており、計算問題や事例問題が出ます。ここで扱うのは、運行計画、指導監督、健康管理、車の特性、そして事故を防ぐ手立て。どれも「正解が条文に書いてある」とは限らないものです。
SECTION 1試験ではこう問われる
条文を問う分野と、使い方を問う分野
運行管理者試験の出題分野は、法令の分野といくつかに分かれたうえで、最後に実務上の知識及び能力が置かれています。ここだけは問い方が違います。条文の文言を選ばせるのではなく、運行の条件を示して「この計画は成り立つか」を問う、あるいは事例を示して「運行管理者としてどう対応するのが適切か」を問う形になります。出題数は試験センターの公示でご確認ください。
正誤の根拠が条文だけでは決まらない設問もあります。たとえば「点呼で疲労を訴えた運転者に対する対応として適切なもの」といった問いです。条文は「乗務させてはならない」としか書いていませんから、そこから先は運行管理者の判断になります。この章はその判断の材料を集める章です。
設問で問われやすいのは、条文の枠と現場の都合がぶつかる場面です。荷主の指定時刻に間に合わない、代わりの運転者がいない、車が1台使えない。そういう条件のもとで「適切な対応」を選ばせる形になります。枠を超える選択肢は、どれだけもっともらしくても正解になりません——これが一つの目安です。
SECTION 2現場ではこう現れる
運行管理者の一日に、五つの章が並んでいます
朝の点呼で酒気帯びと睡眠不足を確かめるのは第1章と第5章、そのとき使うアルコール検知器の備付けは第1章。運行の指示を出すときに拘束時間を数えるのが第2章、日常点検の報告を受けるのが第3章。走っている間の速度と積載が第4章で、帰ってきたら点呼と日報。一日の中で、五つの章が順番に出てきます。
ここで起きやすいのが、章ごとに担当が分かれてしまうことです。点呼は運行管理者、車検と点検は整備管理者、労働時間は事務。それぞれが自分の範囲を見ているのに、運行全体としては枠を超えている——という状態が生まれます。運行管理者の仕事は、分かれているものを一つの運行として見ることにあります。
- ✓① 乗務前点呼(酒気帯び・睡眠不足・日常点検)第1・3・5章
- ✓② 運行の指示(経路・時刻・休憩の位置)第2・4章
- ✓③ 中間点呼・連絡(遅れの扱い)第1章
- ✓④ 乗務後点呼(日報・運行記録計)第1・5章
- ✓⑤ 月末の集計(拘束時間・運転時間)第2章
この5行を紙にしておくと、運行管理者が交代したときに引き継げます。頭の中にしかない手順は、人が変わった月に必ず抜けます。輸送安全規則第20条に並ぶ業務を、自社の時間割に落とし直す作業だと思ってください(1-18)。
「知っているが、回っていない」という状態
巡回指導や監査で指摘されるのは、多くの場合知らなかったことではありません。知っているのに、記録が残っていない、様式に欄がない、誰の仕事か決まっていない。知識と運用の間が空いている状態です。この章で扱うのはその間を埋める話ですから、条文の暗記とは違う手つきが要ります。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
判断の記録がないと、判断しなかったことになります
事故や監査のあとに問われるのは、そのとき何を見て、どう判断したかです。点呼記録簿に「異常なし」とだけあり、拘束時間の集計が翌月まで作られていなければ、判断の材料が手元になかったことになります。適切に判断したことを示す方法は、記録しかありません。
逆に、枠を超えそうな運行を組み替えた記録、疲労を訴えた運転者を出さなかった記録、荷主に遅延を伝えた記録が残っていれば、それは体制がある証拠になります。普段は手間でしかない紙が、この場面では会社の側に立ちます——第1章から繰り返し出てきた話が、この章でも同じ形で出てきます。
試験対策として条文と数値だけを覚え、自社の様式は業界団体の雛形のまま使う。——雛形は出発点としては良いのですが、自社の運行に合わない欄が残り、必要な欄がないまま使われがちです。睡眠不足の欄がない点呼記録簿、教育の項目が印刷済みで実施内容が書けない教育記録。様式は、書く人が書ける形になっているかどうかで決まります。使いにくい様式は、いずれ形だけ埋められるようになります。
確認の一問一答
運行管理者試験の「実務上の知識及び能力」の分野は、他の分野と何が違うか。
条文の文言を問うのではなく、運行の条件や事例を示して、運行管理者としての判断や計算を問う形になっている点です。ただし、枠(改善基準告示の上限など)を超える選択肢は正解になりません。
運行管理者の業務は、どの条文に定められているか。
貨物自動車運送事業輸送安全規則第20条です。点呼の実施、運転者等台帳の作成、指導監督、運行の指示など、営業所で日々行う業務が並んでいます(1-18)。
巡回指導や監査で指摘される不備は、多くの場合どのような性質のものか。
知識がないことよりも、記録が残っていない、様式に必要な欄がない、担当が決まっていないという運用上の不備です。適切に判断したことを示す方法は記録しかありません。