CHAPTER 2 ── 2-13
労働契約
— 明示・就業規則・解雇の手続
労働条件は、契約のときに書面などで明示しなければなりません。令和6年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」など四つの事項が加わりました。就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出が必要で、絶対的必要記載事項が決まっています。解雇には30日前の予告か30日分以上の平均賃金。運送業では営業所ごとの人数で判断する点が見落とされます。
SECTION 1試験ではこう問われる
入口は明示、途中は就業規則、出口は予告
労働契約に関する出題は、三つの場面に分けて整理できます。契約を結ぶときの労働条件の明示、日々の労働条件を定める就業規則、そして契約を終えるときの解雇の予告。それぞれ数字と手続が決まっています。
| 場面 | 条文 | 要点 |
|---|---|---|
| 労働条件の明示 | 第15条 | 契約の締結に際して明示する。賃金・労働時間その他の一定の事項は書面の交付による(労働者が希望した場合は電子メール等でも可) |
| 就業規則 | 第89条・第90条 | 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、作成して行政官庁に届け出る。作成・変更には過半数代表の意見を聴く |
| 解雇の予告 | 第20条 | 少なくとも30日前に予告する。予告しない場合は30日分以上の平均賃金を支払う。予告の日数は、平均賃金を支払った日数だけ短縮できる |
就業規則の記載事項は、必ず記載しなければならないもの(絶対的必要記載事項)と、定めをする場合に記載しなければならないもの(相対的必要記載事項)に分かれます。絶対的必要記載事項は三つ。①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換 ②賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む)。退職手当や臨時の賃金は、定めをする場合に記載する相対的必要記載事項です。
解雇の予告には除外があります。天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由にもとづいて解雇する場合。ただし、これらの場合には行政官庁の認定を受ける必要があります。「認定なしで即時解雇できる」という形の誤りがよく作られます。
令和6年4月から、明示事項が増えました
労働条件明示のルールは令和6年4月に改正され、明示すべき事項が四つ加わりました(労働基準法施行規則第5条)。運送業では有期契約の運転者を使うことがありますから、後の三つも実際に効いてきます。
SECTION 2現場ではこう現れる
「常時10人以上」は、会社ではなく事業場ごとに数えます
就業規則の作成・届出義務は、事業場単位で判断します。本社と営業所が別の場所にあれば、それぞれが事業場です。会社全体で15人でも、本社8人・営業所7人であれば、いずれも10人未満。逆に、営業所に12人いれば、その営業所について作成と届出が必要になります。運送業は営業所ごとに人が張り付く業態ですから、この単位の話が実際に効いてきます。
「常時10人以上」の10人には、パート・アルバイトも含みます。繁忙期だけ増える人数ではなく、常態として10人以上かどうかで見ます。届出は、その事業場を管轄する労働基準監督署長に対して行い、過半数代表の意見書を添えます。意見を聴くことが要件であって、同意を得ることまでは求められていません——ここも設問になります。
- ✓熊本東営業所の常時使用人数12人
- ✓就業規則の作成・届出済
- ✓過半数代表者の意見書添付済
- ✓直近の変更届(賃金規程)◯年4月
- ✓周知の方法事務所に備付け
- ✓労働条件通知書の様式2024年版
周知の欄を落とさないこと。作成・届出だけでなく、労働者に周知してはじめて効力が問題になります。備付け、掲示、書面の交付、電子的な方法のいずれかで、いつでも見られる状態にしておきます。
運転者の採用時に、まとめて済ませておくもの
運転者を採用するとき、労働基準法の側で必要になる手続と、事業法の側で必要になる手続が重なります。労働条件通知書の交付、就業規則の周知が労働の側。運転者等台帳の作成(1-14)、初任運転者への特別な指導と適性診断(1-21)、雇入時の健康診断が事業法・安衛法の側。採用のたびに三つの引き出しから書類を出すことになりますから、入社時のチェックリストを一枚にまとめておくと漏れません。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
入口の書類が、出口のときに読み返されます
労働条件通知書や就業規則は、平時にはほとんど参照されません。読み返されるのは、辞めるとき、揉めたときです。賃金の計算方法、固定残業代の位置づけ(2-11)、退職に関する事項——ここが曖昧なまま採用していると、そのときに争点になります。逆にいえば、入口の書類を整えておくことが、いちばん安く効く対策です。
解雇についても同じです。30日前の予告か30日分以上の平均賃金という手続は労働基準法の話であり、その解雇が有効かどうかは別に判断されます。手続を踏んでいれば何でも解雇できるわけではありません。就業規則に解雇の事由を書いていない状態で解雇に踏み切ると、手続と実体の両方で足元が弱くなります。
採用時に交付していない労働条件通知書を、あとから日付を遡らせて作る。就業規則を届け出ないまま、届け出たことにして提示する。——届出には受付印が押されますし、通知書は本人の手元にも残ります。交付していなかったなら、いまの労働条件を書面にして改めて交付する。届け出ていなかったなら、いま届け出る。過去を作り替えるのではなく、現在から整える。それが、あとで争いになったときにいちばん強い形です。
確認の一問一答
就業規則の作成および届出の義務を負うのは、常時何人以上の労働者を使用する使用者か。また、この人数はどの単位で数えるか。
常時10人以上です。会社全体ではなく事業場ごとに数えます。パート・アルバイトも含めて、常態として10人以上かどうかで判断します。
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも何日前に予告をしなければならないか。予告をしない場合はどうするか。
少なくとも30日前に予告します。予告をしない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合、その日数を短縮できます。
就業規則の絶対的必要記載事項を三つ挙げよ。
①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項、②賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項、③退職に関する事項(解雇の事由を含む)の三つです。退職手当に関する事項は、定めをする場合に記載する相対的必要記載事項です。