CHAPTER 2 ── 2-11
賃金と割増賃金
— 歩合給でも、割増賃金は要る
賃金は通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日に払う。割増賃金は、時間外が2割5分以上、休日が3割5分以上、深夜が2割5分以上で、1か月60時間を超える時間外は5割以上。運送業で問題になりやすいのは、運行ごとの歩合給や手当の組み方です。歩合給であっても割増賃金の支払いは要りますし、割増賃金として払っているつもりの手当が、計算の基礎に含めるべき賃金だったという指摘も起きます。
SECTION 1試験ではこう問われる
五原則と、四つの割増率
賃金の支払いには五つの原則があります。通貨で、直接労働者に、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うこと。銀行振込は労働者の同意を前提とした例外、社会保険料や税の控除は法令にもとづく例外、というように、それぞれに例外が用意されている形です。設問は、この五つのどれかを言い換えて誤りを作ります。
もう一つが割増賃金です。率は四つ覚えます。
| 対象 | 割増率 | 補足 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 2割5分以上 | 法定労働時間を超えた時間 |
| 休日労働 | 3割5分以上 | 法定休日に労働させた場合 |
| 深夜労働 | 2割5分以上 | 午後10時から午前5時まで |
| 1か月60時間を超える時間外 | 5割以上 | 超えた部分について。中小企業にも令和5年4月から適用 |
重なる場合の考え方も問われます。時間外労働が深夜に及べば2割5分+2割5分で5割以上、休日労働が深夜に及べば3割5分+2割5分で6割以上。休日労働に時間外労働の割増は重ねません(休日には法定労働時間の概念がないため)。この一点が、計算問題での分かれ目になります。
使用者が労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。使用者が、午後十時から午前五時までの間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
割増の基礎に入れない賃金は、七つだけ
割増賃金は「通常の労働時間の賃金」を基礎に計算します。この基礎から除いてよい賃金は限定列挙で、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の七つです。ここに挙がっていない手当は、名称が何であれ基礎に入れます。「無事故手当」「乗務手当」「調整手当」は除外されていません。
SECTION 2現場ではこう現れる
歩合給でも、割増賃金の支払いは要ります
運送業では、運行の本数や距離、売上に応じた歩合給を組み込んでいる会社が多くあります。ここでよく起きる誤解が、「歩合給には残業代が含まれている」というものです。含まれません。出来高払制の賃金についても、時間外・休日・深夜の労働があれば割増賃金の支払いが必要です。計算の考え方は固定給と異なり、その賃金算定期間の出来高給の総額を総労働時間数で割った金額を1時間あたりの単価とし、そこに割増率を掛けます。
もう一つ、出来高払制には保障給の規定があります。出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない(第27条)。荷が少ない月に歩合だけで賃金が大きく落ちる仕組みは、この規定との関係が問われます。
- ✓基本給・歩合給の区分明記
- ✓割増の基礎から除いている手当2種
- ✓そのうち法定の除外にあたるもの1種
- ✓歩合給に対する割増の計算別建て
- ✓出来高払制の保障給の定め有
- ✓60時間超の5割増の取扱い規定済
三行目が要点です。除外している手当のうち、法定の七つに当たらないものがあれば、その分だけ割増賃金が不足していることになります。名称ではなく、実態と法定列挙で判断します。
固定残業代を置くなら、区分と時間数を明示する
一定額の手当を残業代として支払う形(いわゆる固定残業代)を採る会社もあります。この場合、通常の労働時間の賃金にあたる部分と、割増賃金にあたる部分とが判別できること、そして固定残業代が何時間分にあたるのかが分かることが要ります。判別できなければ、その手当は通常の賃金として扱われ、割増の基礎に入ることになります。賃金規程と労働条件通知書(2-13)の書き方が、そのまま効いてくる部分です。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
不足額は、遡って請求されます
割増賃金の計算が誤っていた場合、不足額は過去に遡って支払う必要があります。賃金請求権の消滅時効は、当分の間3年とされています。1人あたりの月額が小さくても、人数と月数を掛ければ額は大きくなる——ここが、賃金の論点が他の指摘と性質を異にするところです。是正勧告を受けてから計算し直すのと、平時に規程を整えておくのとでは、負担がまるで違います。
そして、賃金の問題は退職時に表面化しやすいものです。在職中は言われなかったものが、辞めたあとにまとめて請求される。賃金台帳、タイムカード、日報がすべて残っている以上、計算はやり直せます。記録が整っている会社ほど、計算誤りの影響も正確に出るという面があり、だからこそ規程のほうを先に整えておく意味があります。
割増賃金の不足を、翌月以降の歩合単価を下げて相殺する。就業規則を遡って書き換えて、除外できる手当だったことにする。——賃金の引下げは労働条件の不利益変更であり、別の問題を作るだけです。就業規則の遡及も、届出の日付と食い違えば通りません。不足があると分かったら、その時点から正しい計算に切り替え、遡及分は遡及分として整理する。順序を守ったほうが、結果として早く収まります。
確認の一問一答
賃金支払の五原則を挙げよ。
通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払いの五つです(第24条)。それぞれに法令や労使協定にもとづく例外があります。
法定休日に労働させ、その労働が午後10時以降にも及んだ場合、割増賃金の率は合計で何割以上になるか。
6割以上です。休日労働の3割5分以上に、深夜労働の2割5分以上を加えます。休日労働には時間外労働の割増を重ねない点に注意してください。
割増賃金の基礎となる賃金に算入しないことができる賃金を挙げよ。
家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の七つです。限定列挙ですので、これ以外の手当は名称にかかわらず基礎に算入します。