CHAPTER 2 ── 2-07
予期し得ない事象
— 除いてよい時間と、残しておく記録
令和6年4月からの改善基準告示で新しく入ったのが、予期し得ない事象への対応時間の取扱いです。車両の予期せぬ故障、乗る予定のフェリーの欠航、災害や事故による道路の封鎖・渋滞、警報が出るような異常気象。運転中にこれらに遭って遅れた時間は、客観的な記録で確認できる場合に限り、拘束時間・運転時間・連続運転時間から除くことができます。除ける代わりに、記録を残す義務が実質的に生まれた規定です。
SECTION 1試験ではこう問われる
四つの事象、三つの時間。除けるものは、それだけです
令和6年4月からの改善基準告示で新しく入った規定です。運転中に予期し得ない事象に遭って運行が遅れた場合、その対応にかかった時間を、拘束時間などから除くことができます。設問になるのは「どの事象が対象か」と「何から除けるか」の二つ。どちらも範囲がはっきり決まっていますから、覚えてしまえば取れます。
対象となる事象は、厚生労働省労働基準局長が定めるものとして四つ挙げられています。いずれも運転中に起きたものであることが前提です。
第一項第三号に定める一日についての拘束時間、同項第六号に定める二日を平均した一日当たりの運転時間及び同項第七号に定める連続運転時間の規定の適用に当たっては、予期し得ない事象への対応時間を当該拘束時間、運転時間及び連続運転時間から除くことができる。この場合、勤務終了後、同項第五号本文に定める継続した休息期間を与えること。
「客観的な記録により確認できる時間」が条件です
この規定は、記録があってはじめて使えます。運転日報への記載だけでは足りず、その事象が実際に起きたことを外から確かめられる資料が要ります。故障なら修理明細書、フェリーなら欠航情報の写し、渋滞なら道路交通情報センターのホームページの記録、異常気象なら気象庁の掲載情報。Q&Aでは、対応時間そのものの特定が難しい場合に、実際の拘束時間から計画上の拘束時間を差し引く方法も示されていますが、いずれにせよ事象の発生を裏づける資料は必要です。
範囲の限定も二つあります。一つは、対応できるのはその事象に運転中に遭遇した運転者本人に限られること。代わりに出勤した運転者の時間は対象になりません。もう一つは、運転を始める前にすでに事象が発生していた場合は対象外だということ。出発前から警報が出ていて、それを承知で出発したのであれば、予期し得ない事象とは言えません。
あわせて、除けるのは改善基準告示を当てはめる場面に限られます。その時間が労働時間であること自体は変わりませんから、時間外労働の上限(年960時間。2-10)の計算や、割増賃金の計算から除けるわけではありません。
SECTION 2現場ではこう現れる
遅れた日に何を残すかを、あらかじめ決めておく
この規定を実際に使えるかどうかは、遅延が起きた当日に記録を残せたかどうかで決まります。あとから思い出して書いても、客観的な記録は集まりません。遅延が出たら残す資料を、あらかじめ一枚の紙にしておく——それだけで、この規定は使えるようになります。
- ✓事象の種類③ 事故渋滞
- ✓発生を知った時刻・場所14:20/九州道
- ✓解消した時刻16:05
- ✓対応時間1時間45分
- ✓添付した客観的記録交通情報の画面
- ✓勤務終了後の休息期間11時間20分
最後の行を必ず入れておくこと。対応時間を除いたうえで、休息期間は通常どおり与える必要があります。ここが空欄のままだと、除いたこと自体が使えなくなります。
運行管理者が、その場で判断できるように
遅延の連絡が入った時点で、運行管理者は二つのことを決める必要があります。この遅れが四つの類型にあたるか、そしてどこまで走らせて、どこで切るか。対応時間を除けたとしても、休息期間は通常どおり与えなければなりませんから、その日の終業時刻をずらせば翌日の出庫も後ろにずれます。除ける規定であって、無制限に走らせてよい規定ではない。連絡を受けた側の判断が、そのまま翌日の運行に効いてきます。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
記録がなければ、ただの超過として残ります
この規定を使えなかった場合、その日の拘束時間や運転時間の超過は、そのまま違反として集計に残ります。渋滞に巻き込まれたことは事実でも、記録がなければ外からは確かめられません。「事情があった」ことを説明できる会社と、できない会社の差が、そのまま数字の差になって出ます。
逆に、この規定を広く使いすぎるのも危険です。日常的な渋滞、荷主都合の待機、自社の配車の見込み違い——これらは予期し得ない事象ではありません。四つの類型に当たらないものまで除いて集計していれば、監査で組み直されたときに、実際より短い数字を出していたことになります。使える場面を狭く保っておくほうが、結果として信頼されます。
拘束時間が超えそうな日に、あとから「渋滞があった」ことにして対応時間を差し引く。客観的な記録は添えないまま、日報の備考欄にだけ書いておく。——これは記録の作り替えです。道路交通情報や気象の記録は誰でも確認できますから、突き合わせれば分かります。使えない日は使わない。四つの類型に当たるかどうかを、その場で運行管理者が判断できる形にしておくことが、結局はいちばん安全です。
確認の一問一答
予期し得ない事象への対応時間は、1日についての拘束時間のほか、どの時間から除くことができるか。
2日を平均した1日当たりの運転時間と、連続運転時間です。条文が挙げているのはこの三つで、1か月・1年の拘束時間は挙げられていません。
予期し得ない事象への対応時間を拘束時間から除いた場合、勤務終了後の休息期間は与えなくてよい。○か×か。
×。除いた場合であっても、勤務終了後には第1項第5号本文の休息期間(継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない)を与える必要があります。
運行の途中で車両が故障し、その対応に2時間を要した。この2時間を拘束時間から除くために必要なものは何か。
客観的な記録により確認できることです。運転日報の記載に加えて、修理明細書など、事象の発生を外から確かめられる資料を残します。運転を始める前からすでに発生していた事象や、代わりに出勤した運転者の時間は対象になりません。