CHAPTER 5 ── 5-06
健康に起因する事故を防ぐ
— 脳、心臓、そして睡眠時無呼吸
運転中に意識を失えば、大型車はそのまま走り続けます。健康に起因する事故は件数こそ多くありませんが、結果が重いという性質があります。国土交通省は、脳血管疾患・心臓疾患・睡眠時無呼吸症候群のそれぞれについてガイドラインとマニュアルを出しており、定期健康診断では見つからないものをどう見つけるか、という組み立てになっています。
SECTION 1試験ではこう問われる
定期健康診断では見つからないもの
健康に起因する事故で多いのは、脳血管疾患と心臓疾患、そして睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関わるものです。国土交通省はこの三つについて、それぞれ別の資料を出しています。共通しているのは、通常の定期健康診断の項目だけでは見つけにくいという前提です。
| 脳血管疾患 | 自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドライン ~脳健診の必要性と活用~平成30年2月 |
|---|---|
| 心臓・大血管疾患 | 自動車運送事業者における心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン令和元年7月 |
| 睡眠時無呼吸症候群 | 自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル ~SAS対策の必要性と活用~令和7年7月 |
| 全般 | 事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル平成22年7月策定/平成26年4月改訂 |
いずれも法令ではなくガイドライン・マニュアルです。守らなければ直ちに違反になるという性質のものではありませんが、事故のあとに「示されていた手立てを講じていたか」という形で参照されます。改訂されることがあるので、使うときは最新版を確認してください。
三つに共通する組み立ては、①スクリーニング(ふるい分け)を行う → ②所見のあった者を精密検査につなぐ → ③結果に応じて就業上の措置をとるという流れです。脳血管疾患であれば脳健診(脳ドック等)、SASであれば簡易検査。定期健康診断に上乗せする形で行うものという位置づけです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠中に呼吸が止まる、あるいは浅くなることを繰り返す状態です。本人には自覚がないことが多く、「よく寝たはずなのに日中に強い眠気がある」という形で現れます。睡眠不足(5-07)とは違い、時間は取れているのに睡眠の質が確保されていない。点呼で「何時間寝ましたか」と聞いても引っかからないのが、この症候群の厄介なところです。
SECTION 2現場ではこう現れる
「いびきがうるさい」という話が、手がかりになります
SASの手がかりは、本人よりも周囲が先に気づくことがあります。大きないびき、寝ている間に呼吸が止まる、車中泊のときに同僚が気づく。健康の話としてではなく、雑談として出てくることが多い。運行管理者がそれを聞いたときに、検査につなげられるかどうかが分かれ目になります。
もう一つの手がかりが、運行記録計やドライブレコーダーに残る、原因のはっきりしない挙動です。深夜から早朝にかけて、車線をはみ出した、急ブレーキが記録された。本人に聞いても「気づいたら」と言う。こういう記録が同じ人に続いているなら、居眠りではなく体の側の問題かもしれない、と疑う値打ちがあります(5-12)。
- ✓日中の強い眠気(時間は寝ているのに)SASを疑う
- ✓大きないびき・呼吸が止まる指摘SASを疑う
- ✓健診で血圧・血糖・脂質に所見脳・心臓
- ✓原因不明の挙動が記録に続く記録を見る
一行目と二行目は、点呼のついでに聞ける話です。三行目は健診結果を会社が受け取っていれば分かります(5-05)。四行目は記録を見る習慣があるかどうか。どれも特別なことではありませんが、誰が拾うかを決めていないと誰も拾いません。
検査を勧めるときの言い方
「病気かもしれないから検査を受けろ」は、たいてい反発を招きます。SASは治療で改善することが多く、治療を始めた人は「こんなに眠気が減るとは思わなかった」と言うことが多い——この順で話すほうが伝わります。検査の費用を会社が負担するかどうかも、先に決めておく。受けやすくする手当てをせずに、受けろとだけ言わないことです。
SECTION 3不備だと、何が起きるか
兆候があったのに何もしていない、が最も重い
健康に起因する事故のあとに問われるのは、その兆候を会社が知っていたかどうかです。健診結果に所見があった、日中の眠気を本人が訴えていた、同じ運転者に不自然な記録が続いていた——それらを把握していながら乗務させ続けていたとなれば、輸送安全規則第3条第6項の問題になります。
逆に、把握していなかったこと自体も問われます。健康状態の把握に努めるのが条文の求めるところですから、健診結果を会社が受け取っていない、点呼で体調を聞いていないという状態は、努めていなかったという評価になり得ます。知らなかったことが免罪にならないのが、この規定の性質です。
SASの検査で所見が出た運転者を、治療につなげないまま乗務から外す。あるいは逆に、所見を本人と会社だけの話にとどめて記録に残さない。——前者は、本人にとっては収入が絶たれる話ですから、隠す動機を作ってしまいます。治療によって乗務を続けられる場合が多いのですから、検査 → 治療 → 経過を見ながら乗務という道筋を先に示しておくこと。後者は、体制があったことを示す材料が残らない形です。個人の健康情報は慎重に扱う必要がありますが、措置を決めた事実と、その根拠となった医師の意見は記録に残します。
確認の一問一答
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、どのような状態か。また、なぜ発見しにくいか。
睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなることを繰り返す状態です。本人に自覚がないことが多く、睡眠時間は確保されているため点呼で睡眠時間を聞くだけでは把握できません。日中の強い眠気や大きないびきが手がかりになります。
健康起因事故の対策について、国土交通省が公表している資料を三つ挙げよ。
脳血管疾患対策ガイドライン、心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン、睡眠時無呼吸症候群対策マニュアルです。これらに加えて、全般的なものとして事業用自動車の運転者の健康管理マニュアルがあります。
これらのガイドラインに共通する対策の組み立てはどのようなものか。
①定期健康診断に上乗せしてスクリーニング検査を行う、②所見のあった者を精密検査につなぐ、③結果に応じて就業上の措置をとる、という流れです。定期健康診断の項目だけでは見つけにくい疾患を対象としています。